最近、の姿を見ていない。この一週間、全然。
 風邪でもひいたのだろうかと思ってたけど、一週間も経つと、さすがの僕も不安になってくる。
 考え込んでいると、ユージーン隊長が目に入ったので聞いてみることにした。

「ねぇ隊長? はどうしたんです?」
「あぁ、か……は長期休暇をとっている」
「どうして」
「サレに聞かれても教えるな、とから言われている。……病気とかではないから、心配するな」

 病気でもないのに長期休暇をとってる? おかしいにも程があるだろ。
 しかも僕には教えないだなんて……

 許さん……許さんぞぉぉお!!



05.思春期は大変新しいスタート





「ふぅ……」
 自分のベッドで寝転がりながら、はため息をついた。
 彼女も、もう14歳。そろそろお年頃なので、ユージーンと寝るのは止めて、一人で寝ている。
 突如、起きたと思ったら、枕を壁に叩きつけた。ベシャリと、枕が床に落ちる。
「……わかんない」
 いきなり奇怪な行動をしだすは、ベッドから降りてブーツを履いた。
 そして、髪を一束にまとめたと思ったら、玄関を開け、外へと出て行く。



「アニー、久しぶりね」
 父の私室で医学書を読んでいたアニーは、突然声をかけてきたに驚いて目を丸くした。
?! いつからそこに……」
「ちゃんとノックして入ってきたわよ? でもアニーったら全然反応しないんだから。で、勝手に入ってきてみたら、案の定アニーは本に熱中してるし。勉強家ね」
 は笑いながら、アニーの頭を撫でた。そんなに対し、アニーは微笑みつつ言う。
「ほら、お医者さんになると徳する事あるでしょ? 例えば、将来わたしがお医者さんになったら、を狙うヴァカ共に“癌ですよ”って言って、強制手術して挙句の果てに“残念ながら手術失敗しました”ってことで殺れるじゃない? ……なーんて、冗談、冗談」
「全然冗談に聞こえないんですけど」
 父親譲りの黒オーラを身に纏わせ、黒発言をするアニーには背中に何か冷たい物を感じながら、冷や汗を流した。
「だって……! 特にあの変態牛肉なんてかなりヤヴァイじゃない?! いつが喰われちゃうか、わかったものじゃないわ……! 喰われる立場の分際で、を狙おうなんざ百万年早ぇんだよ。牛肉なんて、トマサレでもやっとけばいいのに」
「と…トマサレ?」
「トーマ×サレのことよ! 聞いた話じゃ、一年前訓練の時に、牛肉が鬼畜に抱きついたって」
 どこから手に入れた、その情報。
「やっぱりトマサレだったら、サレが無意識のうちに誘い受けとかしてたら良いかしら!ウフフフ…」
「あ、アニー! 破れてる! 医学書が破れてるからッ!!」
 アニーを取り巻くオーラは、黒からピンクへと変わり、萌えからくる馬鹿力のおかげで厚さ約8センチもある医学書をバリベリと破き始めた。
 一通り暴走し終わったアニーは、に話し掛ける。
「それで、どうしたの? 全然の顔を見てなかったから、心配していたの」
「あぁ、ちょっとね。……アニーは、今の自分に自信ある?」
 の質問に対し、アニーは「今の自分に……?」と呟いた。
「そう。今の自分の外見から中身まで。そして自分の考えにも自信はあるのかなって」
「……そんな事、今まで考えた事なかった……わからない」
 の力になれないのが悲しいのか、アニーは眉を顰めながら俯いた。そんなアニーに対し、は慌てて首を横に振る。
「あ、別にいいの。アニーはどうかなって思っただけだから。じゃ、ちょっと早いけど、そろそろ行くね。また来るから」
 ニコッと笑い、部屋から出て行く
……どうしたのかな」
 破れた医学書を無謀にもセロハンテープで補修しようとするアニーは独り、不安気に呟いた。



「あ、
 城で、久々にの姿を見たヒルダが、に声をかける。アガーテの部屋へと向かっていたは、ヒルダの声に振り返り、ヒルダを確認するなり急いで近くへ寄った。
「城に来たの久しぶりじゃない? 最近全然見なかったから……。ところで、この前渡した私の料理の試作品、どうだった?」
「えッ。……う、うーん……ちょっと揚げ過ぎたんじゃないかなぁ……」
 一週間程前に、はヒルダが料理したものを貰っていた。しかし料理と言っても、ヒルダ本人が『唐揚げ』だと主張するだけの黒い塊謎の物体Xだったのだが。
 初めて作ったらしく、食べてくれる人がいないという事で、はその唐揚げだと思われる物体を勇敢にも貰っておいた。その時、隣にいたミリッツァは心の中で拍手をしていただとか。
 そして、家に帰った後に食べようか食べまいか迷っていたところ、ユージーンがその物体を発見し「絶対に腹を壊す」という理由でゴミ箱へと葬り去ったのだった。
 というか、料理は試作品段階で人に喰わせるもんじゃない。
「そう。今度は揚げ過ぎないように気を付けるわ」
 それは『また食べてくれ』と言っているのだろうか。今度は生肉で渡されるのだろうか、とは不安に思いつつ、胃を痛めた。
「ヒルダは……今の自分に、自信ある?」
 唐突に、はアニーに聞いた質問と同じ質問をヒルダにぶつけた。アニーとは違い、ヒルダは即座に首を横に振る。
「あるわけないじゃない。こんな……こんな、醜いハーフの体に自信なんて……アンタはいいわよね、純粋なヒューマの体で」
「あ……違う、違うの」
 ヒルダの皮肉が混じった言葉に、は首を振った。少し、傷ついたような顔をするに、ヒルダはハッとして、優しくの頭を撫でてやる。
「ごめん、ムキになっちゃって……。アンタも、色々悩む時期なのよね。今まで自信いっぱいだったアンタが自信を無くすなんて、なんか不思議だけど。私自身、自信なんてないから『自信を持て』なんて言えないけど……頑張りなさい」
「うん……ありがとう、ヒルダ」
 ヒルダの優しさに、思わず目が潤んでしまう
「いくら自分に自信が無いからと言って、死んじゃ駄目よ」
 最近、が時々頭をよぎってしまう事を、まるでヒルダに見透かされてしまったような感じだった。
 ヒルダの言葉に、必死には頷いて心の中で思う。
(……死ぬのは、ヒルダの料理を食べた時以外、ありえない事にしよう……)
 別に間違ってはいないが、ヒルダの料理が殺人レベルまできているのが凄いところだ。
 の様子にヒルダは困ったように微笑みながら、の肩をぽんっと叩く。
「どこか行く所があったんでしょう?」
「うん、ちょっとね」
 ヒルダに微笑み返し、は答えた。「行ってらっしゃい」とヒルダに言われ、はもう一度ヒルダに礼を告げてアガーテの部屋へと向かう。
 その後ろ姿を見送って、ヒルダはカードを一枚めくった。
「……星の正位置……希望、か……」



「あら、じゃありませんか」
 扉を開けると、いつもの微黒笑顔を振り撒くアガーテの姿。は、アガーテの部屋全体を見て、安心したように息を吐いて、部屋の中へと入る。
「今日はジルバ様はいないのね」
 は、あまりジルバに良い感情を持っていなかった。周りの人は気付かないが、彼女のヒューマに向けられる視線は、どこか冷たいものがあったから。その言葉に、アガーテはニッコリと笑いながら答える。
「えぇ。つい先程までいたのだけど……わたくしがジルバの為を思って用意したお見合い写真をあげると、泣きながら出て行ってしまったの……そんなに嬉しかったのかしら」
 違うと思う。とは言えずに、は笑っておいた。
 三十代でいまだ独身で可哀相だ、とアガーテは思ってお見合い写真をあげたのだろうが、ジルバ本人は凄く痛いところを突かれたわけで。かと言って一国の姫を怒鳴り飛ばすなんて出来ずに、泣きながら部屋を出て行くしかなかったのだろう。きっとジルバは今頃、常時装備している鞭で誰かをしばき倒してるところだろうか。そう思うとだんだん哀れになってきた。
「そう言えば、朝からサレが暴れていたわ」
「え? サレが?」
 アガーテが窓から見える中庭を見ながら、呟いた。その言葉に反応し、は尋ねる。



ユージーン「サレに聞かれても教えるな、とから言われている。……病気とかではないから、心配するな」
サレ「……許さん……許さんぞぉぉお!!」
トーマ「! 何を無駄にフォルスを暴走させているんだ、軟弱なヒューマめがぁぁ!!」
ユージーン「トーマ! それは差別用語だ、取り消せ!」
ワルトゥ「隊長! そんな事よりサレが……!」
兵士「あぁぁあ!! 廊下を歩いていたミルハウスト将軍がサレ様のフォルスに巻き込まれた――!!」
サレ「うぉぉぉぉぁぁぁあ!! ―――!!」
ユージーン「誰か―!! 誰か鎮魂錠を!!」
ワルトゥ「隊長! 鎮魂錠は隊長が持ってます!」
兵士「隊長ぉ――!! ミルハウスト将軍の鎧が切り刻まれて生肌が見えてます!」
ミルハウスト「見るな……見るなぁぁぁあああ!!!」



「大丈夫なんですか、王の盾(特にサレが)」
 素で本当に王の盾の行く末を案じる
 そんなの疑問に対し、アガーテはふわりと微笑み、
「本来ならば、何らかの罰が下されるのだけど……わたくしとしても、ミルハウストの生肌が見れて嬉しかったし、お父様にお願いして無罪にしてもらったの」
 もはや国で一番偉いのは姫なのでは、と思うところだが、ラドラス王の娘愛に免じてスルーしておこう。アガーテは、恍惚とした表情で再び口を開く。
「ミルハウストの……あの白い肌。さすがいつも鎧で紫外線カットしているおかげで、本当に綺麗な肌をしていたわ……そして、生肌を兵士に見られた時の彼の赤い顔……素敵だった……」
 語るアガーテに、はもう逃げ出したい気分だったが、なんとか踏み堪えて笑った。
「アガーテちゃんは、ミルハウストお兄ちゃんにメロメロ(死語)なのね」
 の言葉に、顔を真っ赤にするアガーテ。しかし、途端に悲しそうな表情を見せる。
「でも……でも、ミルハウストは私がどれだけ想おうと、振り向いてくださらないわ……ミルハウストは、きっと醜いガジュマのわたくしなんかより、みたいな……」
「アガーテちゃんは……綺麗だよ?」
……わたくしだって、ガジュマのお母様はとても綺麗だと思う。けれど、ヒューマにとってガジュマは、とても醜く見えるものなのでしょう? 本当のことをおっしゃって」
「私は……私は、ガジュマでもヒューマでも、綺麗な人は綺麗だと思うよ。だって、アガーテちゃんも美人で綺麗だけど、ユージーンだって格好いいじゃない? それに、人を好きになるのって外見じゃないと思う。アガーテちゃんは、ミルハウストお兄ちゃんが醜かったら、好きになってなかった?」
「それは……それは……」
 の言葉に、戸惑いながら目を伏せて「それは……」と、復唱するアガーテ。
「……その、私だって、好きな人が自分に振り向いてくれるか、凄く不安になる時あるわ……ううん、現在進行形で不安よ」
 顔をだんだんと赤く染めながら、しどろもどろと話し出すに、アガーテは猫耳をピクリと動かし、興味深々といった感じでに詰め寄った。
「え? ……好きな方がいるの? どこぞの変態牛肉じゃないわよね……?」
「まさか。あの、ほら……紫の人……」
「紫の人って……さ、サレ?」
 恥じらいつつ、こくりと頷くが可愛らしくて、アガーテはついついを抱き締めてしまった。
「まぁ! わたくし、実は言うとはミルハウストが好きなんじゃないかって……それじゃ、わたくしに勝ち目はないわって思っていたの! 凄く安心したわ……」
「み、ミルハウストお兄ちゃんは、お兄ちゃんみたいなものだもん」
 アガーテはを放し、フゥ、と息をつく。
 そして「でも……」と言葉を続けた。
「サレを好きになるなんて、ぐらいでしょうね。あの冷酷さは有名だし……」
 は苦笑して、ため息をついた。
 一度俯いて、再び顔を上げ、アガーテに向かっては笑う。
「……アガーテちゃんは、ミルハウストお兄ちゃんがヒューマだろうが、ガジュマだろうが好きになったでしょ?」
「そうだけど……彼が同じガジュマだったなら、わたくしはここまで悩まなかった……でも、頑張りましょう、! 二人して恋が実るように……!」
 の手をガシッと握って、目を輝かせながら喝を入れ、笑うアガーテ。
 ようやく普通のアガーテに戻りかけていると思ったは、同じように笑った。
 そして、日が沈みかけてるのを窓から見て、は慌てて口を開く。
「あ、早く帰らないと……ユージーンが帰ってくる前にご飯作らないと!」
、最近は休んでいるの?」
「うん、ちょっと不安定だから、フォルスを使うのは危険だろうってユージーンが……」
「そうなの、頑張ってね」
「アガーテちゃんもね」
 ニッコリと笑いながらガッツポーズをするアガーテに対し、もガッツポーツで応えて部屋を出て行った。
 ……ガッツポーズをする姫なんて、カレギア王国歴代でアガーテが初めてじゃないだろうか。



「……か?」
 家に帰ろうと思って廊下を歩いていたに、ミルハウストが声をかけた。彼の鎧は新調したのか、ピカピカだった。
「ミルハウストお兄ちゃん。……今日は朝から大変だったんですって?」
「もう何も言わないでくれ。思い出したくないッ……!」
 そこまで辛かったのね、とはフォローしかけたが、なんか逆効果のような気もしたので、スルーしておいた。唇を噛み締めて苦痛の表情を浮かべるミルハウストを、哀れむ目で見る。そんなに対し、ミルハウストは心の中で「そんな目で見ないでくれ」と訴えつつ、口を開く。
「しかし、最近全然城に顔を出していなかったな。風邪でもひいていたのか?」
「うーん、ちょっとね……どうしたの? その頬にあるミミズ腫れ」
 は、ミルハウストの左頬にある一直線に走る3センチぐらいのミミズ腫れを見て、尋ねた。ミルハウストは、その傷をバッと触れて、今にも涙を流しそうなぐらい涙を目に溜める。
「これは……いきなりジルバ様に鞭で叩かれたやつだが……私はッ……私はッ……一体どれぐらい苦労すれば、報われるというのだッ……!」
 しょんぼりと壁にもたれかかり、しゃがみ込んで号泣しだすミルハウストを見て、は「本当に可哀相だよ、この人」と思いながら同情心からブワッと涙が溢れた。
「ミルハウストお兄ちゃん……凄く苦労しているのね……!」
「あぁ……朝からは暴走したサレのフォルスに巻き込まれ鎧がズタボロになって生肌は見られるし、昼はズタボロになった鎧を新調してもらうべく、防具屋に行ったら民間人の女達に襲われそうになるし、夕方は夕方で、鎧もなんとか新調してもらい、気分は浮かれ気分だったと言うのに、ジルバ様からいきなり「お前のせいだ――!!」とかワケの判らない事を言われ鞭で叩かれ……」
 嗚呼、神よ。彼に祝福を……、とは願うばかりだった。本当にどれぐらい苦労すれば報われるというのだろうか。ミルハウストの胃がもつかどうかわからない。彼がもし死んだ時、原因は、絶対に胃からくるものであろう。こんなに苦労していれば、そのうち「うッ……胃腸が」なんて言い出してもおかしくない。
 一通り泣き終ったミルハウストは、立ち上がってに言う。
「ありがとう、。少し気分が楽になった……他の人の前ではこんな弱音は吐けないからな」
「そうね。私の前だったら大丈夫なの?」
は……他人と言うより、妹のような存在だな」
「……アガーテちゃんは?」
 の質問に、ミルハウストはカァッと顔を赤く染めた。だいぶ可愛い。そんなミルハウストに対し、は軽く笑った。
「姫様は……姫様は、私にとって大事な人だ……しかし、私とあの人では、違いすぎる」
「違いすぎる? どこがどう違うというの?」
「あの人はガジュマで、私はヒューマ。そしてあの人は一国の姫であり、私は国に仕える兵士にすぎない……」
 俯いて静かに話すミルハウストに、は言葉を詰らせた。そして、ミルハウストは続ける。
「それに……ラドラス王が許してくれないだろう。ラドラス王はカレギア王国始まって以来の超娘ラヴを発揮しておられる。寧ろ一生姫様に婿を作らせないような気もするし……! そして、ラドラス王が逝ったとしても、ジルバ様がいるだろう。ジルバ様はジルバ様で姫様には盲目だ。先日も「姫様に手を出したらしばき倒しますよ」と脅され……」
「頑張れ、ミルハウストお兄ちゃん……!」
 再び半泣き状態になるミルハウストに、涙を流しながらエールを送る心優しい
「愛の前に、種族も身分もへったくれもないわ! ミルハウストお兄ちゃんなら大丈夫よ……私が保証する!」
に保障されても仕方ないような気がするが……そうだな。愛の前に種族も身分もない。大切なのは心、なんだな」
 やっと大切なものを掴んだような感じのミルハウストは、そう言いつつもどこか不安そうにには見えた。
 ここでひたすらミルハウストと共に愛について語り合うのも悪くはないが、日が暮れて暗くなりかけているので、早く帰らねばならない。
「私、そろそろ帰るね。頑張って、ミルハウストお兄ちゃん」
「あぁ、もうこんな暗いのか……送ろうか、
 ミルハウストがを心配して、送ろうかとしたが、は首を振った。
「ミルハウストお兄ちゃんは今からアガーテちゃんの所に行くところだったんでしょ? さっき私が行った時は、ジルバ様はいなかったし……」
「そ、そうか。それなら気を付けて帰るんだぞ」
「うん、ありがとう」
 余程ジルバのお小言が嫌いなのだろう、ミルハウストは。ジルバがいないと聞いて、いそいそとアガーテの部屋の方へと歩いていった。も、真っ暗にならないうちに、と急いで家へと帰る。



 バルカの夜は、霧に包まれ視界が遮られ、危険だ。しかし、ユージーンとの家は城から然程離れていない。だから、も安心して帰宅道を歩いていた。
 ……それ故に、油断していたのかもしれない。
「ッ?!」
 後ろから両腕を掴まれ、引っ張られた。声を出そうにも、その口まで手で塞がれた。そのまま、人気のない所まで引き摺られる。どこかの倉庫だろうか。を捕まえた奴らは、そこまで連れてくると、を突き飛ばした。
「貴方達は、一体……」
 倉庫は暗く、目が慣れるまで時間がかかった。そして、やっと確認出来たのは、ヒューマの男が三人いたという事。
 しかも、正規軍の鎧を身に着けている。一人の男がニヤケながら口を開いた。
「お前って、確か王の盾にいるやつだろ? お前のことは前々から狙ってたんだけどよ、常に周りに誰かがいたからなぁ。それで、今日は絶好のチャンスだと」
「チャンス……狙ってた……? 何を言っているの?」
「カレギア城に女なんてあまり居ない。それに、お前みたいな可愛い顔した奴なんていないからなぁ。女なんて、使われる道なんて一つだけだろ?」
「そーそー。男の性欲処理としてな」
 その言葉に、は絶望した。
(そんな……そんな、私がそんな目で見られていたなんて……変態牛肉は別として、他の人までも……この人たちのいう事が正しいのなら、私は……)
 一人の男が、に掴みかかる。しかし、は全く抵抗しない。
「なんだぁ? 抵抗しないのかよ」
「好きにすれば?」
 俯き加減で涙を目にいっぱいに溜めて、掠れた声では言った。その言葉に対し、三人は顔を見合わせ、えげつなく笑う。二人目の男が、に手を伸ばした瞬間。
「困るなぁ」
 その声と共に、二人目の男の手がピッと切れる。カマイタチにあたったように。聞き覚えのある声に、は顔をあげた。
「サレ……」
 倉庫の入口にいたサレは、に掴みかかっている兵士に近寄ったと思ったら、どこにそんな力があるのか、男の首を片手で締め付け、壁へ押さえつける。
 ヒュッと、男が口から発したのがわかった。
「お前みたいな馬鹿に、は触らせないさッ……! ハハッ、本当に馬鹿みたいだね、君? それと同じぐらいムカツクよ……! ぶっ殺してあげる」
「さ、サレ! 止めて!」
 そのまま男を絞め殺しそうなサレを、は慌てて止めた。サレは、を一瞥し、力を抜いた。
「消えろ。二度と僕の前にその憎らしいツラを見せるなよ。今度は殺すからね」
 冷たく、冷酷に言い放つと、二人の兵士は急いで逃げていった。首を締められていた兵士も、咳込みながらヨロヨロと出て行く。
「さて……? どうして止めたんだい? もしかして犯されたかった?」
「違う……簡単に、人を殺して欲しくなかった……」
 の言葉に、サレはため息をついて、腰に手を当てて楽な体勢をとった。
「長期休暇はとるし、襲われても抵抗はしない。一体どうしたんだい、?」
「わからない……わからないの……!」
「言わなきゃ僕にもわからないよ」
 俯いて震えるの側に寄り、サレが言う。その言葉に、は重い口を開いた。
「自分が何を求めてるのか、自分が何者なのか……。そんなことばっかり考えてたら、周りの人たちの目が怖くなって……周りの人たちが、私に何を望んでいるのだとか。そうこう考えているうちに、いつの間にか部屋に閉じこもっちゃってて……」
「やれやれ、感受性の強いお嬢さんは、これだから大変だ」
 泣きながら、ひとつひとつ声を絞り出して告げるを、抱き締めるサレ。が息を呑むのがわかった。
が本来何者なんて……記憶が戻らないとわからないことだろ? 他人がどう思おうが、さ。 自分というものをしっかり持たないと、フォルスが暴走するよ」
 サレは、微かに嗚咽さえ漏らすの背中を、ゆっくりと撫でてやる。は、サレの胸に顔を埋めて、泣いていた。

 しばらくが泣いた後だろうか、サレが唐突にの顎に手をやり、口付けをした。
「……!」
「勘違いしないでくれよ。僕は……さっきの連中と同じじゃないから」
 目を見開くに、サレは薄く笑って、そう言い放った。しかし、は疑問符を浮かべるばかり。そんな様子のにため息をつき、再び口を開くサレ。
「結婚してくれないかな、
 顔を真っ赤にするを、サレは笑った。
「ははは! こうでも言わないと、に僕の愛は伝わらないらしいから」
「サレ……」
 「いちいち言う台詞がクサイよ」と、喉まで出掛かっていた言葉をは押しとどめる。サレは、の顔を覗き込んで尋ねた。
「返事は、いつくれるのかな?」
「え、えっと……私も、ちょっと前から好きだったんだけど……」
「……へぇ?」
 何故か不敵な笑みを浮かべるサレ。その笑みの裏に何かがありそうだ、とは思ったが、サレに抱き締められて、何も言うことが出来なくなった。サレは軽く笑った後、の耳元で囁く。
「それじゃ、明日からはまた城に来てくれるかな?」
「……うん」

あとがき
どうせなら最後まで甘々で突っ切ろうぜ、自分(涙)と言うか、ヤケに長いですね、今回は。
次回は、多分全体的にシリアスチックでいくと思われます。
ここまで読んでくださった方、有難う御座いました!
2005/3/18
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