やっとがこの屋敷にさっき戻ってきたの。鼻歌を歌わずにはいられないわ……!
それに、ったら余計に可愛くなっちゃって……将来が本当に楽しみだわ。どんな女性になるのかしら!
は戻ってくるし、ヒューゴ様は出張でいないし! 今日はいい日ね。
「~~♪ ……あら?」
私は廊下を歩く足を止めて、二階の窓から庭を見た。
なんてことでしょう、と白タイツが二人きりでいい雰囲気に……! 今からでもこの窓蹴破って二人の間を乱入したいところだけど、これから夕食の準備があるのよね……ああ胸糞ワリィ! ……いやだわ私ったら、乱暴な言葉遣いは厳禁よ☆
、気をつけて。
エミリオだって、変態というヒューゴ様の息子なんだから!
13.リオンの告白つながる想い
夕焼けが差し込むヒューゴ邸の庭。犬も庭師も使用人もいない時間帯の庭。話があると言ってリオンに連れて行かれたのが、その庭だった。
リオンの様子からしてその話というものは、物凄く大切な話だというのがわかる。しかし、なかなか彼は話を切り出さない。でもはリオンが話し出すのをずっと待っていた。無理に聞き出す必要もなかったから。
「……」
「ん?」
シャルティエもいないので完全無言の中、リオンが口を開いた。それに対しては首を傾げて次の言葉を待つ。
「……髪、伸ばすのか?」
そんなことをずっと聞きたかったのだろうか、彼は。確かにはノイシュタットにいる一年間、一度も切っていない。
「天地戦争時代に隊員たちから伸ばした方が可愛いんじゃないか、って言われたの。だからある程度まで伸ばそうかなって思って」
決戦前の遊撃隊の中での談話で、そんな話があがってきたのだ。ヴァンクを慕うように自分を慕ってくれた遊撃隊員たち。死んではいないが突然行方不明になってしまったは、残してきた隊員たちを思うと胸が痛くなった。きっと、悲しんだに違いない。
「確かに、その方がいい」
リオンの言葉に、はドキリとした。そんな事をいうタイプだとは思っていなかった。意外である。
それよりも、とリオンは言葉を続けた。
「は、その……この時代にやってくる前に、好きな奴とかいたのか?」
「それは恋愛面っていう意味で? それだったらいないよ。なんせ年上ばっかりだったし。一番歳が近いのがシャルだったけど、あんな調子だしね。初恋の相手はソーディアンチームのイクティノスだったけど」
でも恋愛というより憧れだったかな、とは笑った。するとリオンはホッとした表情を見せた。萌えた。――いや違う落ち着け私。
「じゃあ……は天地戦争時代に関して、未練はもうないんだな?」
「そりゃ、残してきた隊員たちを思うと悲しくなるけど、基本的にもう未練はないわよ。全部やりきった後だったし」
「それなら良いんだ」
の言葉を聞いたリオンは、一歩に近づいた。手を伸ばせば、充分触れられる距離だった。
「この時代にいきなり飛ばされて、辛い想いをしていないか……心配だったんだ」
そう言って、リオンは微笑んだ。なんて優しい人間なんだろう、とは思った。リオンがもともと優しいのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。いつもその優しさを隠しているから。うまく表現できないだけかもしれないが。
――そんなリオンが私は好きなんだ。
今初めて、は確信する。本当は、初めて会った時から惹かれていたのかもしれない。ただそれを認めなかっただけで。エミリオの中にある優しさに、自分は間違いなく惹かれていた。
「がノイシュタットに行ってしまった時、一年間も会えないと思うと凄く辛かった。そこで、僕は考えたんだ。どうしてこんなに悲しいのかと……それで、気付いた。……僕は、を愛していると」
エミリオは手を伸ばし、の手を握った。
「もしが僕と一緒にこの時代を歩んでくれるのなら。……この想いを、受け止めてほしい」
はエミリオの手を握り返し、微笑む。
「偶然ね。私もエミリオのこと、大好きなのよ。……愛してるのは、私も一緒」
「……本当か?」
「嘘言ってどうするの?」
そう言いながらが笑うと、エミリオは握っていた手を強く引っ張った。そして気付いた時には、はエミリオの腕の中。
エミリオはを強く抱き締める。
「こんな気持ち、初めてで。シャルがに素直に言えって言うから、言ったんだ。それでも、拒まれたらどうしようってずっと考えていた」
「そんなこと、しないわよ」
「ああ、そうだな……」
抱き締め返しながら言うと、の耳元でエミリオはフッと微笑んだ――。
「きゃー! たまんないですね若い人たちは!」
「もう本当に! よりによってリオン様とちゃんという美形カップルだし!」
「ほらほら貴女たち、萌えるのも程ほどにして料理をテーブルに並べなさいな」
悶えて発狂するメイドたちを、長であるマリアンは急かした。彼女たちの発狂元は厨房の端に置いてあるスピーカー。
先程リオンとが庭にいるのを発見したマリアンは、乱入しないかわりに盗聴器を落としたのだった。当然、その盗聴器の繋がる先はここのスピーカー。彼らの告白シーンは、全メイドに筒抜けなのだ。
とはいっても先程まで接触が悪く、途中からしか聞こえなかったのだが告白シーンはばっちり聞き取れた。
マリアンとしては、リオンがまさかに告白するとは思わなかった。ただ、襲われたら困るからいつでも飛び出せるように……と盗聴器をしかけたのである。告白すると知っていたら、そんなわざわざプライバシーを侵害するようなことはしなかった。どちらにせよ盗聴器を仕掛ける段階でプライバシー侵害なのだが。
――でもまあ、皆も喜んでるみたいだし良いわよね。
それよりも、今日はリオンの誕生日なのである。の誕生日はもう既に過ぎてしまっている為祝えなかったが、その分彼の誕生日を祝おうと思った。
「メイド長! ちゃんとリオン様がもう少しでこちらに!」
一人のメイドが慌しく駆け込みながらそう言った。準備は良いわね、と周りのメイドにマリアンが問うと、メイドたちは一斉に頷く。
豪勢な料理が並ぶダイニングの扉が、ゆっくりと開く。その瞬間。
クラッカーの音が盛大に鳴り響いた。
「「!?」」
ダイニングに入るなりいきなり色とりどりの長いテープをかぶるはめとなったとリオンは、目を丸くさせた。その様子に、マリアンはクスクスと笑った。
「誕生日おめでとう、リオン様」
「ぇえ!? 今日ってリオンの誕生日だったの!?」
マリアンの言葉に驚き、は叫ぶように言ってリオンを見た。プレゼントなんて何も用意してないよ、とは申し訳なさそうに言う。
「まあ白タイツの誕生日会っていうのもあるけど、がやっと戻ってきた記念も兼ねてるからも気兼ねしなくていいのよ。それに……」
マリアンはそこで、一度言葉を切った。そして言う。
「が何よりものプレゼントよ。ねえ?」
笑顔で言うと、リオンは一瞬わけがわからない、といった顔をした。も同様だ。そんな時。
『はっはっは! あまりワシに噛み付くんじゃないぞメリー!』
『ガルルルル! ギャンギャン!!』
隣の厨房に置いてあるスピーカーから聞こえてくる庭師と犬の声。それを聞いた途端、やっと悟ったようでリオンは見る見るうちに顔を真っ赤にさせた。
「盗聴器で聞いてたのかッ……!」
震えながら、リオンはそう言った。
一方は。
「ブッ! ……くくくッ」
爆笑悶絶中である。
「! お前は恥ずかしくないのか!? ここのメイド全員に聞かれたんだぞ!?」
「私は恥ずかしくないわよ! だって恥ずかしい台詞言ってたの主にリオンだったじゃん! あはははは!!」
色んな想いが頭の頂点に辿りついたのか、リオンは涙目になっている。は笑いすぎで涙目になっている。楽しいカップルになりそうですねえ、と隣のメイドがそう言って笑った。
「でもリオン様格好良かったですよ! ちゃんが落ちちゃったのもわかります!」
「そうですよ! 私だって「僕と一緒にこの時代を歩んでくれるのなら、この想いを、受け止めてほしい」なんて言われちゃったら即落ちですから!」
「もういい加減黙ってくれ!!」
メイドたちがはやし立てると、リオンは顔を真っ赤にさせ涙目のまま怒鳴った。そんなリオンを見て「カワイイ……」と呟く周りの人間。今のリオンは怒鳴っても無意味なのである。
「それに、僕の誕生日なんてどうでもいいんだ。僕は……」
「と付き合えた今日が嬉しい?」
「誰もそんな事言ってない!!」
リオンが何か言いかけたところ、マリアンは横から口を挟んだ。すると再び顔を赤くさせて突っ込むリオン。マリアンは笑いが止まらなかった。
――ずいぶん幸せそうね、白タイツ……。
「僕は、に誕生日プレゼントを渡したかったんだ……!」
「あれ? 私に? 逆じゃない?」
ヒューゴの話によると、の誕生日はリオンの誕生日の一週間前。渡せる範囲だと、リオンは思ったのだろう。そんな思いを知らず、疑問符を飛ばす。
「だって一週間前だったんだろう? ……受け取ってくれ」
そう言って、リオンはぶっきらぼうにに小さな箱を渡した。開けていい? とが確認すると、リオンは頷く。嬉しそうに箱を開け、は目を見開いた。
「イヤリング!? しかも高そう……! 本当に貰っていいの?」
「当たり前だろう」
の言葉にリオンは照れ隠しなのか、少し拗ねたように言った。しかしは小さく唸っている。自分だけ貰っているのに対して、罪悪感を感じているに違いない。しばらくの間は唸った後、思いついたように手を叩いた。
は箱からイヤリングを一つ取って、リオンの左耳につけた。つけられた本人は呆然としている。そしてはもう一つのイヤリングを、自分の左耳につけた。
「リオンにもプレゼント」
そう言って、は金色のプレートイヤリングを揺らして笑った。するとリオンはしばらく呆然としていたが、やがて微笑む。
「……全く、には敵わない」
――何、この二人の空間。
他のメイドたちはポヤーンと若者の青春を感じているが、を愛しく愛しく思うマリアンにとってはクソ面白くない雰囲気だ。
ダンッ
だから、思わずマリアンは壁に包丁を刺してしまった。
「リオン様ぁ? ご飯冷めちゃいますよぉ?」
「わ、わかった! すぐ食べる……!」
「そういえば。貴女が帰ってくる前にお城から使いの人が来たのよ?」
テーブルに並んだ料理もほとんど食べ終え、最後のケーキを食べてる最中にマリアンが話しかけてきた。が「私に?」と尋ねると、マリアンは頷いた。
「ええ。が帰ってきたらお城に向かうように伝えて欲しいって」
――……。
――…………い、
(言うの遅くないですかあああああ!?)
は思わず心の中で突っ込んだ。既に夜だ。面会は不可能だろう。
「でもいくら城の人だからって、疲れてるを向かわせるなんてそんな権利ないわよねぇ? だから伝えるの忘れちゃってたわ」
忘れてたのではなく、忘れたフリをしていたのでは……。はそう思ったが、口には出さずにいた。認められても怖い。
「もついに客員剣士になるからな。恐らくその事だろう」
リオンはそう言いつつ、ケーキを美味しそうに頬張っている。可愛すぎる。ああそっかあ、とは気の抜けたように言った。
「帰ってきて早々色んな任務を言われるわけね。もう少しゆっくりしたかったなあ」
「わかったわ。明日王様殺しに行ってくるから」
「いや待って!! それ危なすぎるから!!」
「大丈夫よ。バレないように暗殺するわ」
「そういう問題じゃなく!!」
誰もマリアンの心配などしていない。彼女なら殺人スキルを巧みに使って王をこの世から消し去るに違いない。そんな王を心配しているのだ。
「でも、客員剣士になったらリオンと同じ服になるのかしら?」
「え……」
マリアンの言葉に、は隣に座ってケーキをまだ食べているリオンを見た。
――白タイツは嫌だなあ……。
――そうよね。もう少し考えてもらいたいわ。
――僕を何だと……!
やっとくっつきましたこの二人!
と言っても二人が一緒のときって、あまりなかったんですけど。スピード結婚するタイプですねこの二人
修正前の告白シーンには思わず噴きました。「好きだ愛してる」「私もー!」みたいな感じで!シュールすぎます昔の自分。
もう少しで本編突入だ!
それでは、ここまで読んで下さった方有難う御座いました!
2004年代(最終改訂:2009/2/4)