セインガルド城から道中妙な女装集団に追われそうになりつつも、ヒューゴ邸へと僕とは戻った。
 屋敷に戻るとマリアンがを羽交い絞めにしながら迎えてくれた。
 そしてそのまま昼食を取ることになった。

「そういえば、エミリオ」

 マリアンがそう言って僕を見た。睨み据えるとも言えるが。
 名前の件は既に説明済みだ。

「午後、ちょっと手を貸してくれない? 男手が必要なの」
「いや、僕よりマリアンの方が腕力は」
「何か言った?」
「何も。喜んで手伝うよ」

 やはり黒いマリアンには敵わない。腕力ならば僕よりマリアンの方が強いのに。
 はどうするのだろうと思って、僕は尋ねた。

はこの後どうするんだ?」

 僕が聞くとは少し考えて、

「半日旅してくるわ!」

 と言って、早々にその場から立ち去った。
 待て、これはもしかして僕は見捨てられたのか?
 マリアンが側で「元気ねえ」とにこやかな笑顔で呟いた。
 シャルは『……逃げましたね』と呆れたような、感心するような声で言う。

 僕は呆然とするしか出来なかった。



07.絶対厄日神よ、哀れな子羊に光を





 ヒューゴ邸を出発して既に数時間。陽がそろそろ落ち始めている頃だろう。
 マリアンの面倒そうな用事を手伝わされるのが嫌で全力で逃げてきたは、今はクレスタ付近を散策していた。リオンには悪い事をしたな、と思う。でも後悔はしていない。
 モンスターを蹴散らし、は息を吐いた。
 ここら辺のモンスターは弱くて楽だった。天地戦争の時と比べる自分もおかしいだろうが。
 ――せっかくここまで来たんだし、クレスタに寄ってみようかな……。
 がそう思った直前、大量のモンスターの気配を感じた。レイピアを握り締め、草木の向こうからこちらにやってくるモンスターの気配を待ち構える。
 ガササッ
 そう音を立てて出てきたのは、
「リオン!?」
 へそ出したリオン。
 ……否、どこか雰囲気がリオンに似た女性だった。
 思わず名前を呼んでしまっただったが、すぐに違うことがわかる。そしてそんなと目が合ったその女性は、の後ろに隠れた。
「ちょっとアンタ! あの大群どうにかしてくれる!?」
「元からそのつもりですから剣出してまで脅さないで下さい!」
 後ろから背中に刃をあてられる感触がしては焦る。どうにかしてくれる? というより、どうにかしろ、といった感じだ。が叫ぶと女性は剣を納めたようだった。
 そして、次々と草木の中からモンスターが現れる。数が多すぎる事には舌打ちし、一歩下がった。
「げッ! 増えてるし! ねえ、ほんとにどうにかなんの!?」
「大丈夫だから! だからお願い耳元でヒステリーな声出さないで!」
 ぎゃあぎゃあとの耳元で叫ぶ女性を宥めるように言う。
 は晶力を高めていく。
「――来たれ、死の翼よ……ブラックウィング!」
 黒い衝撃波がまるで翼のようになって宙を飛び、モンスターたちに突っ込んでいく。
 ズドドドドドドド
 ――全滅。
 先頭集団が薙ぎ倒され、その後ろの集団は将棋倒しになってまるでドミノのように倒れていった。ブラックウィングの破壊力もそこそこあったのだが、何よりも先頭にいた魔物の図体のデカさが勝因と言えよう。
「すッ……ごーい! あんたよくやるわね! っていうか晶術でしょ今の! 何で!?」
「説明するから! 胸倉掴まないでぇぇ!」
 感極まっての胸倉を掴み上げる女性をは必死になって止めた。悪い人ではなさそうなのだが、いかんせん感情と行動がストレートだ。
『今の技……もしかして、!? なの!?』
「ッ!?」
 そんな中で、頭に直接響く声には驚いた。間違いなく、ソーディアン。そしてその中の女性といったらただ一人――。
「アトワイト姉!?」
 アトワイト・エックスだけだった。
 彼女は涙声で『信じられない……!』と訴える。
が今ここにいるだなんて……! 貴女、神の眼の光に包まれて消えちゃってから大変だったのよ? シャルティエは毎晩泣くし、イクティノスはそんなシャルティエのサポートで大変だったし、クレメンテ老とリトラー司令も元気ないし、ディムロスのオリジナルだって捜索隊まで作ったけれど結局見つからなくて……ディムロスが諦めそうになる度、私のオリジナルは彼を鞭打って捜索隊を何回も出させたわ! ……でも、ソーディアン自体が封印されてしまったのだけど。見つかったのかどうか心配してたのよ』
 そんなに皆心配してくれたのか、と思っては少し涙ぐむ。
「ごめんね、アトワイト姉。ありがとう――」
『いいのよ。鞭で打たれるディムロスを見るのも楽しかったから』
「本当に鞭使ってたんかい」
 さり気ないアトワイトの爆弾発言にはツッコんだ。千年経っても相変わらずの黒さとドSさは健在のようだ。天地戦争時代、アトワイトとカーレルのブラック対決の間で苦しんだ記憶が今でも鮮明に思い出される。
 そんな中、とアトワイトの会話をずっと呆然と聞いていた女性が声をあげた。
「ちょっと、どういう意味? 全く持って理解不能なんだけど」
『ああ、ごめんなさい。そうね、貴女には説明しなきゃ……。彼女はよ。この世界の神ね』
「違うから! 混乱を招くような事言わないでくれる!?」
 アトワイトの突拍子のないデタラメな説明を聞いて女性は「え?」という怪訝そうな顔をする。慌てて否定する。するとアトワイトは少し拗ねたように『神といっても誰もが納得するのに……』と呟いた。しかしそういう問題ではないのでは。
。この子は私のマスターのルーティ・カトレットよ。気性は激しいけれど悪い子ではないわ』
「何よアトワイト。人を馬みたいに説明して……っていうか、あんたたちどういう関係なの?」
 カトレット。そのファミリーネームが非常に頭に引っかかったのだが、それはひとまず横に置いておくことにした。ルーティの質問にアトワイトがどう説明しようか迷っていた為、は口を開く。
「私は天地戦争時代の人間なのよ」
「…………信じろと?」
『彼女が私と面識あるのが何よりもの証拠でしょう?』
 の言葉にルーティは信じられないといった表情をする。
 アトワイトに言われ、ルーティはうーんと呻った。
「千年も生きてたわけ? その姿で」
「そんなわけないわよ。つい昨日、この時代にタイムトリップしちゃったわけ」
は戦争の決着がついた瞬間、光に包まれて消えて……。でもどうやら、消えた後はこの時代に飛んだようね』
 の簡潔な説明に、アトワイトが補足するように言葉を付け足した。やっとルーティは納得したようで「そういうこともあるのねー」と感慨深そうに言う。
 ところで、とアトワイトは言った。
、ちゃんと住める家はあるのかしら? まさかそこら辺でブルーシート敷いてホームレス生活してるんじゃ……!? ああだめよ許されないわそんな事! いつ輩がを襲うか!』
「大丈夫だって! ダリルシェイドの豪邸の持ち主の息子に拾われたから!」
『豪邸の息子ですって!? ちょっと呼びなさいその輩! 私が直々にぶった切ってやるわ!!』
「かつて衛生兵長だった女の言う台詞かソレ!?」
 我を忘れて暴走するアトワイトを必死で宥める。ごめんリオン、知らない所で貴方の敵を一人増やしてしまいました。は咳払いをした。
「シャルティエのマスターなの」
『まあ、あの電波ソードの……』
 同情の声を出すアトワイト。おめでとうリオン、知らない所で貴方の仲間が一人増えました。
 アトワイトはリオンの事を『幸薄い人間』と認識したようだった。よりによって電波ソードのマスターになるなんて相当運がないわね、とため息と共にそんな言葉が吐かれる。
「そんな酷いの? ソーディアン・シャルティエって」
『酷いも何も。常に電波垂れ流し状態よ。ルーティがシャルティエのマスターだったら間違いなく捨ててるわね』
 リオンも何回も捨ててます。
 さすがにそれは言えなかったが、先程横に置いていた疑問が再び頭を出した。どうしても、ルーティとリオンの関係が気になったのだ。顔つきも似ていなくもない。そして何より、カトレットというファミリーネームだ。確かリオンの本名もエミリオ・カトレット。カトレットは母親のファミリーネームだと言っていた。
「あのさ、ルーティ。兄弟とかいる?」
 の質問に、ルーティは少しためらってから気まずそうに頭を掻いた。そして決心するように、口を開く。
「あ~、あたしさ、孤児なのよね。だからわかんないの。でも、それがどうかした?」
「ん、ちょっとルーティに似た人見かけたから。でも気のせいみたい」
 ルーティの質問返しには曖昧に笑って流した。リオンの許可も得ないで勝手に言うわけにもいかない。しかもまだ姉だと確定したわけでもなく、ただの推測に過ぎないのだし。
 ていうかさ、とルーティは口を開いた。
、昨日ぶっ飛んできたばっかりなのにウロウロして大丈夫なの? もしかしてもう迷ったとか?」
「大丈夫、世界中の地理は昨日の夜に本読んで全部頭に叩き込んであるから」
 が答えると、ルーティはポカンと口を開いた。そして苦笑いを浮かべつつ、再び問う。
「一日読んだだけで?」
『ルーティ。はとても頭が良いのよ。ソーディアンを作ったハロルド博士より実験の失敗率は低かったわ』
「ただハロルドと違って追究するタイプじゃないからね。自分に役立つことしか頭使わないけど」
 あはは、とは笑って言った。その瞬間、ルーティの目が鋭く光る。一歩退く。詰め寄るルーティ。
「じゃあさ! が今倒したモンスターって何匹くらい!? っていうかレンズ何枚ある!?」
「へ? えー、あー……ざっと五四〇〇枚くらいかしら」
「おっしゃあああああ! これで孤児院の第一危機は乗り越えられるぅ!」
 ガッツポーズを決め、ルーティは男らしく叫んだ。が呆然としているとルーティはハッとしたように我に返る。
「や、実はあたしレンズハンターで稼いでんのよ。それで……良かったら、このモンスターたちのレンズ、くれないかなぁ~なんて」
 キラキラと瞳を輝かせ、もじもじと強請るルーティ。その強請り方はどこかハロルドに似ていて。そして今更乙女ぶっても遅いと思ったら可笑しくて。は思わず噴出してしまった。
「いいわよ。レンズなんて気まぐれ程度にしか集めてないし。拾うの手伝うわ」
「マジで!? ありがとう! あんたって良い奴ね!」

 レンズ拾いをして20分経った頃だろうか。全てのレンズを拾い集めた後、ルーティとは熱い握手を交わした。
「本当にありがとう、。あんたみたいな良い子、なかなかいないわ。絶対に忘れない。……あたしはこれからファンダリアの方を旅するつもりよ! また会えるといいわね!」
「うん! 私もルーティのこと忘れないわ。今度会う時は電波ソードとそのマスターの王子ルックも紹介するね」
「王子ルッ……!? 余程変わってんのね、あんたのまわり」
「……うん」
 今に始まったことじゃないが。
「それじゃあ元気で! バイバーイッ!」
『本当に病気のないようにね、……! 愛してるわあああ……』
 は走り去るルーティたちを見届けた。しかしアトワイトの愛の叫びだけはいつまでもエコーとなって頭に響いている。一歩間違えれば彼女も電波ソードの仲間入りだ。言ったら殺されかねないが。
 ふと、は気づいた。ルーティは重要な忘れ物をしている。ファンダリアという極寒の地方にいくのにアレがないと辛いに決まっている。特にルーティの場合は。ルーティが見えなくなる前に、は思い切り叫んだ。
「ルーティ腹巻き―――ッ!!」
「いらんわ――――――ッ!!!!!」



 はあれからすぐに帰宅道を急いで帰ったのだが、ダリルシェイドに着いたのはどっぷり夜につかった後だった。
 深いため息を吐く

 それもこれも、途中で虫モンスターに出くわしたからである。虫モンスターに追いかけられ、ダリルシェイドを越してストレイライズ神殿へ駆け込み、お茶を一服させてもらって虫がいなくなったのを見計らいダリルシェイドに帰ってくる途中にまた出くわし理性が切れクレイジーコメットを連発し、虫(だけではなく自然も)を抹消し今しがたやっとの思いで戻ってきたわけである。
「疲れた……」
 身体がいつもの何十倍も重く感じて、今にも倒れそうだ。さすがにクレイジーコメット連発は過酷だったらしい。軽く三十発は放ったような気がする。
 倒れそうになるところを必死に堪え、はヒューゴ邸へと戻ろうと歩みを進める。
「こんな夜に女の子一人で何してんのかなー?」
 いきなり数人の男に囲まれる
 ――絶対に厄日だわ。
 再び出そうになった深いため息を飲み込み、は男たちを睨む。男は合計で四人。走る力も逃げる力も残っていない。
「……帰宅が遅くなったんです。今から帰るんですから邪魔しないで下さい」
「つれないコト言わないでさぁ」
 この四人の中でもリーダー格の人間が、の肩を抱く。そしてその口元をの耳に寄せる。
「一緒に遊ぼうぜ?」
「……声が低いわけでもない色気があるわけでもない。そんな萌えない男に耳元で囁かれても虫唾が走るだけだわ!」
「なッ……!?」
 男の顔が真っ赤になる。は「しまった」と内心思う。逆上させる気はなかったのだ。しかし本音が先に出てしまったのだから仕方ない。だって本当に萌えなかったんだし。
 逆上してしまった男はを無理やり狭い路地裏に連れ込んだ。その路地裏の入り口に三人の男を立たせる。
「おい、お前ら! ちゃんと見張っとけよ!」
「「「はい!」」」
「おい、お前ら! ちゃんと城に自首しろよ!」
「「「はい! ……って何でじゃあ!!」」」
 突っ込みまで揃った。
 リーダーの命令に気持ちいいくらい声を揃えて言うものだからも好奇心で言ってみたくなり、言ってみたらこの結果。この無駄なチームワークをもっと別の方向で生かせばいいのに、と思う。
「こいつ、放っておけば好き放題言いやがって!」
「! むぐッ」
 男に無理やり布を口に押し込まれる。
 更には手もタオルか何かで後ろに縛られてしまった。抵抗はしたが、力の出ない今のが敵うはずもなく。
「まだ子供だが関係ねえなあ? こんだけ立派な口持ってたらよ」
 ――嫌。
 声を出そうにも出せない。助けを呼ぶことさえ許されない。ああもうなんで今日はこんなに不幸なのだろう。耐えられない。
「「「ぎゃあああああッ!!!」」」
 悲鳴。間違いなく先程の三人の男たちだった。
 思わずそちらに目を向けると、闇の中で血が舞っていた。
 ――助けにきてくれた!
 リオンだろうか。いや寧ろリオンであってほしい。萌えるのに!は萌えたかったが、その期待は泡となって消える。暗くて見えないが、その人物は身長が高いということだけはわかった。この判断はさすがにリオンに失礼かとは思ったが事実なのだから仕方ない。
 ――誰?
 は目を必死で凝らした。そこで丁度、今まで雲に隠れていた月がその人物を照らした。
 は絶句した。いや、絶句するしかできない状態なのだが。自分と同じ色の金髪。緑の瞳。よく似た目元。そんな人物は、世界で一人しかいない。
「娘を返してもらおうか」
 紛れもない、ミクトラン本人だった。何故ヒューゴの姿をしていないのだろうか、何故よりによってコイツが助けに来たのかなどと色々な思いが頭を駆け巡る。
 機嫌の悪いミクトランの殺気を受けてか、を捕らえていた男はすっかり震え上がっていた。をまるで盾にするかのように前へと押し出すが、腕は離さない。
 ゆっくりと歩み寄ってくるミクトラン。
 ――私も怖いわ。
 そんなツッコミを心の中では静かにした。
を離せ。殺すぞ」
 離しても殺すだろお前。
「くッ……来るな! 来るな来るな! 来たらコイツを――ッ!」
 ミクトランが舌打ちをする。
 その後は、一瞬だった。目にも留まらぬ素早さでミクトランは一気に詰め、剣を男に突き刺していた。何もいう事も出来ずに、男は地面に崩れる。もつられて座り込みそうになるが、ミクトランがを抱きとめた。
 口に入れられた布を、ミクトランは取ってくれる。は言いたかった。
「ぎゃあああ! 変態ぃぃぃぃぃ!!」
「助けに来てやったのにその態度か!?」
 白状なにミクトランは盛大にツッコんだ。
「そんな悪い子は手枷外しません」
「そ、それは困るわよ。歩くのもやっとなのに」
「いや、縛られているお前もイイなと思って」
「やっぱり変態じゃねえか」
 興奮した目つきで言うミクトランには冷たく突っ込んだ。するとミクトランは笑いながら、の手枷を解いてくれた。その笑顔は、先程まであれほどの殺気を出していた人間とは思えない――優しい笑み。
「っていうか、何で本当の姿なの?」
「ああ……。二年前に精神を実体化させれるようになったんだ。これにはレンズが大量に必要なんだがな。神の眼さえ入手できれば、本当の肉体まで完全に復活させられるのだが……」
 是非この変態が風上にのさばらない為にも神の眼が見つからないよう祈る。
「で、どうしてこの場所が?」
「愛の力」
「私、今全然体力ないから余計な突っ込みどころ増やさないでくれる?」
 心底嫌そうな顔をしてが言うと、ミクトランは「冗談だ」と言った。笑えない冗談である。
「お前が絡まれているのを見たという人物が屋敷に慌ててやって来て……すぐさまリオンが助けに行こうとしたんだが、アイツだけにオイシイところを取られてはなるものかという事で、みぞおち一発オネンネしてもらい、私はヒューゴから精神離脱し先に助けに来た」
「本当に最悪ね」
 ミクトランの強行な手口にかかったリオンを哀れむしかない。
 それにしても、とミクトランはの身体を支えながら言った。
「どうしてこんなに衰弱している? まるで力がない」
「クレスタ付近からストレイライズ神殿まで全力疾走して、ストレイライズ神殿からダリルシェイドまでクレイジーコメット連発しながら帰ってきたの」
「よく生きているな」
 自分でもそう思う。
 そうが言う前に、ミクトランがギュッと抱き締めた。
「あまり無茶をしないでくれるか……。お前を幸せにするのが私の願いなのに、死んでしまっては元も子もないだろう」
「…………」
 ――また調子のいいことを。
 はそう思わずにはいられなかった。ミクトランは自分の事しか考えない。昔から。だから自分のことなど、どうでもいい癖に……。
 でもこの腕の中だけは、心地いいと感じてしまう。久々、だった。ヒューゴの姿をしたミクトランには抱き締められたが。本当の姿で抱き締められるなんて、ダイクロフトを飛び降りる以前のことだろう。
 黙って大人しくしていたら、突然ミクトランの顔が目の前に現れ――
「――ッ!?」
 今、現在進行形で、はミクトランに唇を奪われている。
 こういう時、防衛本能というものは働くのだろう。
「何さらすんじゃ変態親父!!!」
「ガハァッッ!!!」
 の殺人的回し蹴りが変態親父の横腹に綺麗に入った。ゼエハアと息を切らしながらは仁王立ち、その足元に崩れ落ちるミクトラン。
「いきなり何なのよ!? 犯罪! 倫理観の欠如!!」
「いや、待て……それより自分の身体の変化には気がつかないのか……」
「あ? ……あ」
 ミクトランに言われ、は気づく。身体に力が戻っていることに。万全とまではいかないが、だいぶ回復している。
「口付けで、力をお前に送ったんだ……。まさか、こんな仕打ちを受けるとは思わなかった……が……」
 気絶するミクトラン。仇は討ったよリオン! ……いや違う。
 そんな事とは知らず、本能だけでミクトランを討ってしまったは呆然と立ち尽くした。
「……えーっと、うん。ありがと、父さん」
 少し、いやかなり。分が悪いような気がした。気絶してるが放置していても大丈夫なのかな、と思う。顔だけは良いので、物好きに見つかったら攫われるかもしれない。……いや。
 は屋敷に向かう為、踵を返した。

 ――攫われても、それはそれで良いや。

あとがき
あれ、ミクトラン夢? 親子愛親子愛!
それでは、ここまで読んで下さった方有難う御座いました!
2004年代(最終改訂:2023/12/21)
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